用事から帰宅すると
いつもなら暖かいお茶をせがむのに
姑は私と目を合わそうともせずに
「ただいま」
とだけ言って自室へ向かってしまった。
旦那は早朝から出かけたようで家にはいない。
「お義母さん。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど、今だいじょうぶですか?」
姑の部屋の前から呼びかけると
しばらくしてふすまが開いた。
「今忙しいんだけど…どうしたの?」
昔から表情豊かで
結婚当初は笑い皺の絶えなかった姑の顔が今はこわばっている。
『お義母さんが盗んだの?』
口に出かけた言葉を飲み込んだ。
あの鍵をどうやって
開けたのかもわからないけれど
昨日一日でだれにも知られず
私の部屋であの鍵を開けるような時間があったのは姑くらい。
そうだとしても
これだけは言ってはいけない気がして
「私の部屋のものがなくなって探しているんです。白い封筒をどこかでみませんでしたか?」
姑の眼がこまかく震えている。
「知らないなぁ。見かけたら教えるわね。」
いつもなら
「なにが入っているの?」
と聞いてきそうな姑が
あっさりと自室に戻ってしまった。
誰もいない静かなリビングに戻ってソファに腰かける。
うすうす気づいてはいたけれど
『家族』といるはずのこの屋根の下に
味方は誰もいないことを痛いほど感じた。
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